「イチロー・インタビュー Attack the Pinnacle!」
(小松成美著/新潮社)より

―そして特別な感覚をつかむ瞬間が訪れる。
イチロー 九十九年四月十一日、日曜日、ナゴヤドームでの西武戦です。三連戦の最終ゲーム。その9回、トップバッターだった僕は、リリーフ登板した西崎さんにボテボテのセカンドゴロに打ち取られたんです。……………僕は最悪のセカンドゴロだったのですが、次の瞬間嘘のように目の前の霧が晴れたんですよ。「ああッ、これなんだ!」と思いました。これまで、探し求めていたタイミングと体の動きを一瞬で見つけることが出来た。それをあやふやなイメージではなく、頭と体で完全に理解することができたんですよ。




―イチローさんのすべてが野球に向いている。
弓子 そうですね。彼の最大にして唯一の羅針盤は、彼自身の肉体感覚なのだと思います。だから、七年連続して首位打者を獲得しようとメジャーに移籍しようと、野球選手としての自己の肉体に百パーセント満足できなければ、彼は納得できないのだと思います。……………彼は、表面的な数字ではなく自分が目ざす肉体の感覚に問いかけ、またそれに自信を持っているように見えます。周囲が「素晴らしい活躍dね」と言っても、自分が満足する肉体感覚を手に入れていなければどこまでも求め続ける。彼の強靱さはそんなところにあるのかもしれませんね。
リファレンス

 あるテレビのインタビューでイチローは「天才と言われることについてどう思うか?」ときかれると、「そう思いたければどうぞ御自由に。どう思われようとかまわない。僕が僕であることが一番重要ですから」と答えている。99年、ナゴヤドームでの西武戦でセカンドゴロに打ち取られたイチローは、突然天啓に打たれたかのようにこれまで探し求めていた自分のバッティング感覚をつかむ瞬間が訪れる。最悪のセカンドゴロにベンチの監督も怒っていたが、イチローはひとり感動に打ち震えていた。以降、なんとストライクの70%を捉えらることが可能になったという。「イチロー・インタビュー Attack the Pinnacle!」(小松成美/新潮社)は、自分の満足の行く野球を壮絶なまでに追い求めるイチローの核心に迫った一冊。メジャー移籍後、初の本格的インタビュー集。