IBPプログラム・ウエストミンスター大学コース

やり残したことに再チャレンジするなら今しかない!
定年の1年前に留学を決意

留学期間:2009年4月〜2010年3月(IBP40期生)
留学先:IBPプログラム・ウエストミンスター大学コース
インターン先:Coram(慈善団体)

1948年生まれ、京都在住。製薬会社などに長年勤務し、2009年2月に退職。4月にIBP40期生として留学した。サッカーとビートルズが好きで、留学先はイギリスを選択。ロンドンではホームステイを体験したのち、フラットを借りて生活。サッカー観戦やコンサート、楽器のレッスンなど、積極的に留学生活をエンジョイした。


年齢も国も異なる多くの友人は、かけがえのない財産

最初のホームステイ先

3ヶ月間の英語クラスが終わりに近づいた頃、クラスメイトとティータイム

カルチュラルプログラムの一環として訪問したオックスフォード大学

アラン諸島のダン・エンガスにて

リージェントキャンパスのカフェテリアにて

キューガーデンにて

世界トップクラスのプレーヤーが活躍するプレミアリーグの中でも、伝統の一戦として人気のあるリバプール対マンチェスターユナイテッド戦。アンフィールドにて

クリスマスは地下鉄も完全休業

Q:留学前の経歴を教えて下さい。

A:大学(理学部生物学科)卒業後、35年間に渡り、2つの民間企業でひたすらサラリーマン人生を過ごしました。前半18年間は東京に本社を置く製薬会社の診断薬部門で営業、研究開発、広告宣伝および輸出入契約の仕事に携わりました。後半17年間は京都に本社を置く臨床検査会社で学術研究、IR広報、遺伝子診断、国際ライセンス契約等を担当。海外駐在の経験はありませんが、海外出張は約40回。定年後1年間の嘱託勤務を経て、2009年2月に退職しました。

Q:留学を決意した動機は?

A:大学時代に欧州留学を目指し、2年間休学して資金稼ぎのアルバイトに明け暮れたものの、諸般の事情から実現には至りませんでした。それから長い年月を経て、60歳定年が目前に迫って来た3、4年前から退職後のことをいろいろ考えるうちに、これまでの人生においてやり残していたことに再チャレンジする好機到来なのではないか、と思い至りました。「実行するなら体力も気力もまだ十分に残っている今しかない」という気持ちが急速に強まって、定年の1年前に留学を決心しました。

Q:IBPプログラムは何で知りましたか?

A:IBPを知ったのはまったくの偶然です。2008年初春、インターネットの留学比較サイトにリストアップされていた数社からパンフレットを取り寄せて日程や費用の検討を始めたばかりの頃、たまたま地下鉄内のポスターでIBPの説明会開催案内を見て、何となく参加しました。説明会では、ビデオによる紹介で留学先がロンドンにもあることを知り、卒業生のトークで、他の留学斡旋会社とは異なるプログラム内容(語学研修、学部授業、インターンシップの構成)によって英語力の向上だけでなく、多くの得難い経験ができたという感想が非常に印象に残りました。どちらかと言うと、郊外よりも交通の便が良く活気のある都心が好きなので、ウエストミンスター大学の所在地がロンドンの中心部であるオックスフォードサーカスにあることも、大きな決定要因でした。

Q:イギリスを留学先に選ばれた理由は?

A:第1に音楽です。高校1年生のときに初めて聴いて心酔したビートルズの生まれた国への格別の思い入れがあったこと、20歳代以降はロックに限らずフォーク、クラシックも含めて、英国音楽CDの収集と鑑賞が趣味となりました。
第2にイングランドプレミアリーグサッカーの大ファンで、テレビ観戦だけでは飽き足らずに、ここ数年間は毎年英国各地のスタジアムに観戦に行っているほど。リバプールFCのファンクラブに入っていますが、どのチームでも機会があれば観に行きたいし、全スタジアム制覇の野望を持っています。
第3に物心のついた頃から乗り物が大好きで、特に近年は鉄道発祥の地である英国の車窓から見る風景をこよなく愛し、ブリットレイルパスを駆使した鉄道旅行を毎年楽しんでいます。
以上の理由から、留学先として英国以外は考えられませんでした。

Q:授業の中で印象深かったのは?

A:自分にとってベストの授業は「English for Film and TV」です。講師は毎年8月に開講されるこのコースだけを教えに来ている英国人。受講者の国籍もフランス、イタリア、スペイン、カナダ、ドミニカ、日本と多彩であった上に、短期間のサマーコースのためか、フルタイムの学生より社会人が多く、映画制作関係者や俳優等のプロも含まれていたため、非常に密度の濃い毎日でした。
授業では、1990年代終盤から2000年代制作の英国映画を中心に、毎日数本ずつDVDを鑑賞し、シナリオや制作意図、演技、映像・音声技術などについて全員でディスカッションする形式。最初の頃は内容が専門的過ぎて戸惑いもありましたが、日を追って面白くなっていきました。その理由として、日本ではあまりなじみのなかった最近の英国映画のクオリティが予想以上に良かったこと、感情を英語で表現する難しさがあったものの、予備知識がなくてもその場で思ったことを端的に発言すれば良いので入り込みやすかったことが挙げられます。
余談ながら、ある日の題材のひとつに小津安二郎監督の「東京物語」が使われたのは日本人として嬉しい気分だったし、小津作品の良さが若い外国人にもきちんと通じることが改めて確認できました。

Q:苦労した授業や課題はありますか?

A:4 Moduleのうち2 Moduleは途中で興味がなくなったのでやめましたが、Art and SocietyとSpeaking Skillsは最後まで参加しました。授業には参加しても、アサインメント(レポート作成)にかなりの課題図書の読み込みが必要で、中間レポートまでは何とか提出しましたが、最終レポートはあえて断念したのです。というのは、単位交換の可能な現役学生と異なり、今さら単位をもらっても仕方ないので、モチベーションの維持が極めて困難だったこと、アサインメントの準備のために限られた貴重な時間を使うよりも、コンサートやミュージカル鑑賞に時間を振り向けた方が良いと思って、早々に割り切ったことにあると自己分析(弁解)しています。

Q:イギリス滞在中はどんなことに熱中していましたか?

A:滞在中はコンサート25回、映画鑑賞を約30本、ミュージカル2回、イングランドプレミアリーグのサッカー観戦5回、美術館、博物館巡りは数えきれないほど行きました。ロンドン近郊やスコットランド、北アイルランド、ウェールズ、アイルランド共和国、ドイツへも旅しました。10月から半年間はプロのインストラクターについてバイオリンの練習を始め、イングランドやアイルランドの伝承音楽(Traditional Folksongs)の個人レッスンを受けました。

Q:同期のICC生とはどのように交流していましたか?

A:大学のCultural ProgrammeのWalking TourやLunch time Lectureに参加したことが言葉を交わすきっかけとなり、毎日同じメンバーに限られるクラス内よりもはるかに多くの友人が得られました。誰かの誕生日やイベント、年間行事にかこつけた寮でのパーティーに何度か誘ってもらい、フラットに移ってからは、自分でも月に1度くらい友人たちを招いてホームパーティーを開くようになりました。その結果、渡英以前にはまったく想像もできなかったような年齢も国も異なる多くの友人ができたことは、かけがえのない大きな財産となりました。

Q:インターンシップはどういった会社で体験しましたか?

A:Coramという、恵まれない環境の子供と親を対象とした慈善団体でインターンしました。18世紀頃のロンドンには日々の暮らしにゆとりがないことから親に捨てられた子供が大勢いたため、心を痛めたThomas Coramという篤志家が個人で作った私立病院が母体。今は病院はありませんが、託児所、職業訓練、母親への育児教育、里親探しなどを事業として行っています。Russell Square駅近くの主要施設を拠点に約200人のスタッフがおり、ボランティアも日替わりで働いています。ここで担当したのは、寄付金を配布する慈善団体のリスト(専用ウェブサイト)から、寄付依頼の対象として条件に適うところをリストアップする作業(Excelで表作成)。2月中旬から3月下旬に帰国する2日前まで、週に1日のペースで参加しました。

Q:インターン体験の感想を教えて下さい。

A:すべての人が非常に真面目かつ勤勉であり、昼食時もほとんど仕事の手を休めず、自席でサンドイッチとかサラダを食べながら仕事を続けていることにはかなり驚きました。仕事ぶりも大変きびきびして、欧米のNPOはのんびりゆったり仕事をしているのでは、という先入観を見事に裏切られました。また、担当業務を通じて垣間見ただけですが、寄付をする側とされる側の対等な立場での協力関係があり、その金銭的裏付けを元手にボランティア活動を何十年、何百年と継続して行う相互扶助の仕組みが見事に確立した英国社会に対して、尊敬と羨望の念を持ちました。

Q:仕事環境や習慣において、日本との違いを感じた点は?

A:インターン先がNPOであり、企業の場合とは異なる点があるかも知れないので一般論として違いを述べることはできませんが、スタッフそれぞれが自分の意志を貫いて仕事を選択している印象がありました。仕事を替えながら希望に近づくようにキャリアアップするのは簡単なことではありませんが、だからこそ日々の担当業務に強いモチベーションを持ち、ろくに休憩も取らずに働いているのではないかな、という感じがしました。言い換えれば、今の状況に満足し、のんびりと過ごしている人は1人もいないのではないかと思います。

Q:留学先での滞在方法は?

A:渡英当初はホームステイをしましたが、誰にも気兼ねなく自由に過ごせる環境を求めて7月半ばからフラットを借り(1DKバストイレ付き)、待望の1人暮らしを始めました。ホームステイに問題があったわけではないですが、フラット生活は精神的に開放感が味わえ、日本にいる家族がいつ来ても泊まれる安心感ができたこと、ロンドンのクラスメイトを招いて月に1回くらいのペースでホームパーティを開く楽しみもできたことから、英国滞在をさらに充実したものにできました。また、自分の好みで家具や食器を選んだり、壁にビートルズのポスターを貼りめぐらしたり、遥か昔の独身時代を再現できたようで嬉しかったですね。

Q:ロンドン生活を満喫されたようですね。

A:「ロンドンは世界で最も物価が高くて住みにくい町」という定評がありますが、観光客としてホテルに泊まり、外食ばかりしていたら確かに高いと思います。しかし、フラットに住んで自炊した経験から言えば、決して高すぎるという印象はありませんでした(ポンドが安い時期だったという幸運もあって)。それどころか、多数の博物館や美術館は入場無料、世界最高レベルの演劇や音楽が年中割安(日本と比べて)で見られる、映画も新旧の名作が常に安い料金で見られる、さらにロンドンの内外には驚くほど多くの名所旧跡があって、歴史の現場を自分の目で見ることができるなど、知的、芸術的好奇心を満たすには打ってつけでした。

Q:1年間の留学体験で価値観は変わりましたか?

A:60年以上も日本社会に(うち35年間は日本の企業文化に)浸りきっていたため、かなり価値観が固定化してしまっていました。社会人になる前にこのような留学経験をしておけば、視野の広さや他国民に対する理解が断然異なると思います。40歳代で初めてインドを訪れた時「もし20歳代でここに来ていたら、きっとはるかに人生観が変わったに違いない」と痛感しましたが、それは今回の留学についても言えます。
日本にいる時にはマスコミ報道でしか知り得なかった国々に関して、その国々から来ている学生と直接話して、根拠のない先入観や偏見が払拭できました。生身の人間として話し合ってみると、決してマスコミが伝えるような画一的なイメージではなく、その国に対する印象が180度変わり得るということを何度か実感しました。

Q:ICCのサポートはいかがでしたか?

A:京都オフィスの中西さんには、2008年7月に初めてIBPプログラムの説明会に参加してから2009年4月にロンドンへ出発するまでの約9ヵ月間、常に懇切丁寧にご助言とご指導をいただきました。そのおかげでほとんど戸惑いや不安を感じることもなくすべての準備を問題なく終えることができました。
また、ロンドンオフィスの深野さんには、ロンドン到着から帰国までの約11ヵ月間、学習に関することから住まいのこと、日用品の買い物に関することまで「よろず相談窓口」として幾多の有益なご助言をいただきました。留学開始直前にたまたまロンドンに行くついでがあって初めてお目にかかった時、1966年のビートルズ来日公演の話で一気に盛り上がり、以来、オフィスにお邪魔するたびに音楽の話題に時間を忘れるのが常でした。世代の近さゆえの話題の共通性が、異国での慣れない環境から来るストレス解消にどれほど貢献したか計り知れません。

Q:今後、留学経験を活かしてやってみたいことなどはありますか?

A:3年前に受講した定年後の生活設計をテーマとする生命保険会社主催の「セカンドライフセミナー」で知ったことですが、普通のサラリーマンが現役時代に費やした総労働時間数と、定年退職してから平均余命を全うするまでに持ち得る自由時間数(睡眠時間、食事時間等を除外した時間)は、ほぼ同じなのだそうです(約10万時間)。定年後に再度、新卒の社会人一年生に戻ったつもりで挑戦できるのだと考えれば、今からいったいどれだけのことが可能かとても楽しみです。現時点ではまだ今後の計画の詳細を確定するには至っていませんが、留学前から考えていたいくつかのことを、できればせっかく習得した英語や英国に関する知識を生かしながら実現できるように歩み始めたいと考えています。

Q:同年代の留学希望者の方々へ、メッセージをお願いします。

A:一生の中で体力、気力、時間、資金といったすべての必要条件が揃うタイミングはそれほど多くはないので、実行しようと考えるのなら一刻も早く(しかし、慌てず、焦らず)行動に移した方が良いと思います。留学中の1年間というのは決して長い時間ではないし、費用も半端なものではないので、常に最大満足を基準に、本当に自分のしたいことをすることです。もちろん、ただわがままにすれば良いと言うのではなく、自分の目的や希望を忘れず(安易に妥協せず)、常に挑戦者の気持ちを持って、講師の先生方や他の学生との年齢差はひとまず忘れ、一学生としての立場を明確に意識することが大切です。それぞれの事情によって異なるので一概には言えませんが、できれば家族帯同よりも単身で行くメリットの方が大きいと思われます(友人作りにも英語学習にも)。
社会人が退職または休職して留学する場合、学生以上に目的意識や達成目標がはっきりしているはずなので、どのコースが自分の目的にかなっているかの判断にさほど困難はないと思いますが、事前準備や実行計画の策定、さらに留学中に遭遇する問題への仮想体験(シミュレーション)をする上で、同様の経験をした方々の著書を読むことが役立ちました。下記はその一例です。

「60歳のボストン留学挑戦記」菅沼武治(文芸社)
「63歳からのパリ大学留学」藤沢たかし(新潮社)
「63歳・東京外語大3年 老学生の日記」坂本武信(産經新聞出版)
「留学生は64歳 老学生の日記II」坂本武信(産經新聞出版)
「84歳。英語、イギリス、一人旅」清川 妙(小学館)
「おっさん留学生 世界に飛び出す」上瀬 豊(ほおずき書籍)
「お母さんも留学するぞーロンドン演劇学校奮闘日記」広瀬さと子(本の泉社)

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