 |
 |
No.8「平和への祈りと深呼吸の効果」(2001/11/22)
もう10数年前の話しになるが、イスラエルに住んでいた事がある。
中東に暮すのはもちろん始めてであったし、見るもの聞くもの食べるものすべてが始めての体験だった。
英語の話せない私は、現地語であるヘブライ語のカタコトを学び、なんとか3歳児程度の会話と最低限の自分の要求を伝える事で生活をしていた。
そこに暮す人々は、その土地に2000年以上前から居住する子孫と言われるアラブの人々と、多種多様な国々から移民して来たユダヤ人達である。当時建国わずか40〜50年のその国は、世界中から集まったユダヤの人々が母国語のヘブライ語を移民した後に母国で修得するという人々の集まった不思議な国だった。
バックグラウンドは、先住のアラブの人々を含め、数十カ国からなる人々の集まる国である。当然あらゆる文化人種がミックスする訳だが、ユダヤの人々はユダヤ教という思想を柱にまとまった強い絆の集団である。そして彼らは素晴らしい集中力で短期間に母国語を修得する。
意外に知られていないかもしれないが、日本の中学校で習う、フォークダンスなどという踊りはイスラエル民謡が多い。この国は国土の半分が荒涼とした砂漠地帯である。水を求めて水に感謝し水を恋うイスラエル民謡に「マイムマイム」という曲がある。「マイム」はヘブライ語で「水」を意味する。このフォークソングは、中学の体育祭などで踊った事があるのではないだろうか?必ず「心ときめく恋する人」の2人前で曲が終了するというダンスだ。
ヘブライ語の幼児語が分かるようになった頃、イギリスに移り住んだ。
ここは英語の本家本元。日本語とヘブライ語などという世界中で2カ国でしか理解されない特殊な言葉しか話せない私は、さらなる苦痛と向き合う事になる。
「フィッシュ バーガー」が通じず、やむなく「チーズ バーガー」を注文し、厨房の料理人に Mr.コックと呼び掛けてびっくり仰天され、後にMr.コック成る意味を理解した時には、あまりの事に部屋をうろうろ歩き回ってしまった程だ。
英語の練習として出された課題を口ずさみながら「チューブ」(地下鉄をこう呼ぶが何故なんだろう?)に乗っていた。「Red Rose Yellow Rose Red Rose Yellow Rose」買い物に行った筈だったが当然買うべき物を忘れ、バラの花束を握りしめて帰宅したことは言うまでもない。
そんなこんなで苦節十年、日常会話はほぼ苦労する事が少なくなった。
先日所用で市役所に行ったときの事、窓口の巨体のおばさんが、「Do you speak English ? Do you understand ?」と突然憮然と言うのだ。
私はニコニコ笑って、「Of course Madame . May I possibly …」と殊更丁寧に答えた。挑発に乗ってはいけない。時々いるのだこういう人が。亜細亜人嫌いか、自分
に自信がないので弱いもの虐めをする人が。このような事は本当はよくある話しなのだが、一瞬にして頭に血がのぼる。
でも人間処方を学ぶもので、話しはじめる前に深呼吸をする様になった。酸素が脳みそに届くと一瞬頭に登った血が引くのだ。(これは科学的に正しい。と思う)母国語でもやってみる事をお勧めする。
これは私の極端な私情と偏見だが、他国語で苦労をした人は、「自分と異なる事柄や異なる文化を理解し受諾する力」を備えていると感じる。
だが、「理解し受諾をする」という事は、沢山の事を「諦め、受け入れる」という事でもある。
私は、沢山の事を諦めて受け入れてきた。でもその何十倍の人々が私の事を諦めて受け入れてくれてきたに違いないのだ。
きっと沢山の人にため息をつかれ、深呼吸をされてきたに違いない。
多くの移民の人々から構成される、アメリカもイスラエルも、今一度深く深呼吸をしてみてはどうだろうかと遠い南半球から祈る日々が続く。
フローレンス@NZ
|
 |