世界の最先端の IT 現場を肌で体感!IT を駆使した Meet the Professional

IBP ビジネス留学プログラムでは、留学中に現地で働くプロフェッショナルから話を聞き、交流する機会を積極的に設けています。その取り組みの一つが、『Meet The Professional』。

今回はシアトルにある大手 IT 企業でエンジニアとして活躍されている今崎憲児さんをお迎えし、IT を駆使したワークショップ形式で行いました。今崎さんのレポートをお送りします!

僕が Meet the professional を引き受けた理由

僕は米 IT 会社でエンジニアをしながら、Seattle IT Japanese Professionals (SIJP) という NPO で子供向けにコンピュータ・サイエンス(CS) 講座を開いています。先日も熊本と福岡とシアトルを Youtube で結んで講座を開きました。現在のプロジェクトは、世界で使われている教材を使って、日本の子どもたちにアメリカの子どもたちと一緒に英語で学んでもらおうというものです。CS を日本語で学ぶことは、色々無駄が多いと考えているからです。そのプロジェクトを行なっている過程で、日本の教育に興味を持ちました。

そこで、僕の興味のある教育について、IBP ビジネス留学プログラムの学生さん達に一緒に考えて貰おうと思って企画しました。また、IT および ICT を駆使したワークショップに興味があったので、やってみようと思いました。そこで、次の原則を設けました。

  • 主役は学生で、僕は黒子に徹する。
  • 紙や鉛筆を使わない。全てコンピュータ上で行う。
  • 全ての作業の入力、出力はクラウド(Google Doc)で共同作業で行う。
  • 手を挙げて発言することを避ける(理由はあとで説明します)。
  • 時間を細かく切って、違うことをする。
  • 僕が話している時でも、コンピュータの画面を見るのはOK。
  • 1回のワークショップで終わるのではなく、その前後で何か繋がった活動をする

これらの原則に則り、次のようなツールを使うことにしました。これらのツールは、SIJP の CS 講座で使っているものです。

  • Seesaw・・・全米で広く使われている教育プラットフォーム
  • Kahoot・・・4択クイズプラットフォーム
  • Google Sheets・・・BrainWriting の文書の同時編集に使用
  • Google Slides・・・Q&A でみんなが聞きたい質問を優先的に回答するために使用

 

事前課題

事前課題として、ワークショップに関連する課題を2つ出しました。

①シアトルにきた理由を教えてください。(Seesaw Activity を参照)
②日本の教育の問題点を教えてください。(Seesaw Activity を参照)

課題を見てビックリしたのは、みなさん非常に高い目的意識を持ってシアトルにきているとわかったことです。おおまかに言うと次のような内容でした(多い順に)。

  1. 英語を話すようになりたい
  2. 経験を積みたい
  3. IT を学びたい
  4. 多様な文化を学びたい。

特に心が打たれたのは、以下のようなものです。

「何でシアトルに来ているか」という問いに対する根本的な答えは「自分の人生の目的」を見つけたいからです。肩書や過去の実績でしか自分を名乗れない人間になってしまうことよりも、自分が描く理想の社会や目的によって自分を語れる人間になりたいというのが素志です。

また、2年前にアフリカでインターンをしていた企業が倒産しました。ソーシャルビジネスという目的のある活動が継続しないことに課題意識を抱き、ビジネスというものをより深く知ろうと思いました。これらの素志と原体験が重なって行きついた場所がシアトルです。

今は「誰かの人生の変化に立ち会う」といった漠然として目的をより明確にしようとしています。6月以降からはHR系の企業でインターンすることが決まり、主にTraining(育成)の分野での経験を積む予定です。

 
教育の問題点も力作がありました。特に次のものはいいと思いました。

「思想」「経済性」「政治」という観点で考察したが、これらの要素は互 いに深く絡み合っており、総合的に解決に取り組まなくてはいけない。

しかし、ここで自己矛盾が生じていることに目を向けたい。私自身は、現状の日本の教育によって輩出された人材である。日本の教育問題は「思想」「経済性」「政治」 の3つの観点から考察することができる。公平や平等を重視する日本特有の思想、教育がもたらす正の外部性へじょ配慮が不十 分であること、そして教育における中央集権化。これらの要素が教育が本来果たすべき機能を低下させていると考える。

<本文略> 日本の教育問題を「現状の教育を批判するということは極論、自分自身 を批判するということになる。もしかしたら、この自己矛盾が教育問題の解決を遅らせて いるのかもしれない。というのも、人間は自己を正当化する生き物であり、自己を批判するものを避ける傾向にあるからである。 教育問題を本当に解決させるためには、人間一人ひとりが自己批判を恐れない向上心 と忍耐力を身に着けることから始まるのかもしれない。

 
参加者にも、僕が抱いている日本の教育への危機感はあるようで、少し安心しました。これらをシアトルから少しずつでも、変えていければと思っています。

これらの課題は、後でグループディスカッションのグループわけに使われました。

授業の方は、最初にスクラムミーティング体験からワークショップをはじめました。

 

アイスブレーク(スクラムミーティング体験)

最初にアイスブレークとして、シアトルにきたことについてのスクラムミーティングを体験してもらいました。Google などの IT 企業ではスクラムミーティングが積極的に用いられています。

今回のワークショップでは、それを疑似体験をしてもらうため、最初の宿題(”なぜシアトルにきたか”)に関連して次のことを行いました。

  1. 参加者をそれぞれを3−4人のグループに分ける。
  2. スクラムマスターを決める。スクラムマスターは次のことをする
    ・進行
    ・タイムキーパー
    ・とりまとめ

  3. 1人1分の時間で次のことを話す。
    ①簡単なシアトルにきた目的
    ②そのためにこれまでやってきたこと
    ③これから帰国までにやること
    ④そのための障害

  4. 他の人による障害を除くためのアドバイス(1分)

その後の気付きをさっそく Seesaw にアップロードしてもらいました。次のようなものでした。

<時間の制約(1人1分)について>

短い時間の間に自分の目標や障害となっていることをうまく伝えるには、普段から目的意識をもって行動していることが大切だと思いました。
時間制限があることで自分にとって重要な優先事項が少し明確化した。
自分の考えを端的に話すことが難しいと思った。それを英語でも話せるようになる必要を感じた。

 

<障壁・障害について>

障壁について意識する機会が意外となかったので、克服するための方法について真剣に考えてみようと思った。
違った障害を持っている人がいると、解決策を与えやすくて、いい方法だと思った。
その場で口に出して言葉にしてみることで、問題は結構簡単に解決しそうに思えてくる。

 

<アドバイスについて>

フィードバックを毎日得ることで PDCA サイクルを速く回せる
相手に意見をもらって、それを受け入れても受け入れなくてもカウンターとしてブラッシュアップすることが出来る。
自分の課題である英語力に関しては、「どのコミュニティに属するかを意識すること」というアドバイスを頂き、実行に移すべきと感じました。
またもう一つの障害として、「描いている漠然とした未来への具体的な道筋が見えない」という障害に関しては、他にも同じ悩みを抱えている人が多いことに気づいたので積極的に相談していこうと思いました。
自分の中にはなかったアドバイスが新鮮

 

<形式について>

グループのみんなについて知れた。みんな同じような悩みを持っている。
自分が考えていることを相手に伝えることで新たに発見することがある。

 
皆さんも是非グループワークなどで使って見てください。Google の中には、このミーティングを毎日行うチームもあります。今回はできませんでしたが、スクラムミーティングは一般的に、仕事のリストがあるダッシュボードを見ながらする場合が多いです。そうすると、チームメンバーとの状況の共有がうまく行きます。

 

アイデアを集める(Brainwriting)

グループでの教育問題のディスカッションの前に、できるだけたくさんのアイデアを集めたかったので、brainwriting を実施しました。

Brainwriting は、僕が Google で働いている時にチーム全員でインターンプロジェクトを考えるときに実施して、面白かったので今回やりました。Brainwriting は典型的なブレインストーミングの次のような問題点を解決するために考えられました。

  • アイデアを出すためにボトルネックが存在し、アイデアの数が少ない
  • 声が大きい人や積極的な人がアイデアを支配する
  • (付箋を使った場合)付箋に書いた文字が読めない場合がある。また、コンピュータに入力するのに手間がかかる

Brainwriting とは、基本的に一定時間の間に思い浮かんだアイデアを隣の人に渡すことです。一般的に紙の上にテーブルを書いてやりますが、今回は効率を上げるため、Google Sheets 上で共同作業を行いました。

授業の宿題で提出された内容に全ての回答に目を通して、次のようなテーマを決めました。

  • 教員問題
  • 知識の詰め込み
  • 均等教育問題
  • 受け身教育
  • 教育の画一化

そして、次のようなGoogle Spreadsheetを作りました。

Brainwriting で用いた Google Sheets

ポイントは、最初にテーマを並べたテンプレートを作り、同じタブを10個作成することです。そして、参加者それぞれに0-9までの番号を与え、そこで1分間の制限をつけ、次のことをやってもらいます。

  1. (A)の部分にテーマに関係するキーワードやアイデアをどんどん書いてもらう。テーマに属さない内容は、(B)の部分に書いてもらう。
  2. それが終わると番号を一つずらして(9の人は次に0のタブをつかう)、同じことを繰り返す。これを10回繰り返す。

結果、たくさんのアイデアが集まりました。公開しましたので、こちらをご覧になってください (タブ0-9の部分)。

 

日本の教育の問題の解決策を話し合うグループディスカッション(unconference)

Brainwriting で生まれたアイデアをさらにもっと深めるために、グループディスカッションを取り入れました。これも Google などで用いられている unconference という形式を元にしました。Unconference は 参加者自身がテーマを出し合いそのテーマについて自分たちで話し合い、参加者全員で作り上げる会議方法です。

宿題の内容によって分けられたグループに次のことをやってもらいました(制限時間を考えてる)。

  • Brainwriting で出されたグループに関係するアイデアを集め、スプレッドシートに集める
  • 解決策を考える
  • 解決策を Seesaw にアップロードする(Seesaw Activity を参照)

たとえば均質教育の解決に取り組んだ班からは次のアイデアが出ました。

【イノベーション人材を生み出すために】
高平均人材を量産する教育カリキュラム
問題は国なのか。→多様な人材が生まれないことが問題なのか
イノベーション人材が均質教育では生まれにくい
均質教育=考えないはロジックとんでる?
外部から、どう生み出せるか
イノベーション人材を生み出す教育を生み出すために。
指導要領どう変えるではなく、事業として何ができるか
高校でビジネスの教育をする人をしっている。→社会に触れるような授業が必要
キャリア教育の拡充→考えるより触れるのが大事。知る、道を外れてもよい空気感、将来を考える、が授業として必要。
哲学教育が必要。→歴史教育が多いけど、現状や未来を考える教育
個人の影響力などの価値の時代。などの未来の方向性を考える教育が必要
幼児教育で頭の柔らかさを鍛える。→お母さんの教育が必要。→家庭教育をどう変えるか
お母さんの学校。→お母さんの教育を国で保障する。(お金、時間)

 
残念ながら、十分な時間が取れなかったため、ビデオなどでuploadしたグループはいませんでした。また、深い議論もできなかったようでしたが、またやってみたいと思います。

 

Q&A

5分間の休憩ののち、今度はQ&Aの時間に移りました。なんでも答えられるものの範囲で答えました。

ここでも、ITの力を使ってみんなが聞きたいことを答えようと思いました。そこで、Google Slide の Q&A 機能を使って、学生さんの聞きたい質問から答えることにしました。

スライドを表示した時に、表示されるリンク、聴衆はこのリンクから質問を書いたり、他の人の質問にいいねをすることができる

質問にいいねがされる様子。プレゼンターは人気のあるものから質問を答えることができる。

Q&A では、次のような質問が出ました。

日本の教育のいいところはありますか(いいねの数:6)
文系総合職の場合、IT リテラシーはどのレベルまであったほうがいいか(いいねの数:5)
facebook や google は日本をどのように評価しているか、空気感的にぶっちゃけどんな感じか(いいねの数:4)
名だたる企業を渡り歩いて気づいたこととは (いいねの数:4)
どのような人材が日本に必要か(いいねの数:3)
今どのテクノロジーに一番可能性を感じているか(いいねの数:3)
プログラミング教育を進めることでどのようないい影響があると考えますか?(いいねの数:3)
ITの力で教育格差は解決できると思いますか?(いいねの数:3)
今崎さんの考える理想の教育とはどのようなものなのでしょうか?(いいねの数:3)

 
回答については、ここでは省略しますが、大変有意義な時間を過ごすことができました。

 

Kahoot

最後の5分間を利用して、Kahoot のクイズをやってみました。Kahoot は聴衆参加型の四択クイズプラットフォームです。正解をできるだけ速く言うと得点が高くなります。

予め面白いクイズを用意していたのですが、セーブをするのを忘れていた為、使うことができませんでした。当日予定していたクイズはここ (PIN: 0859840)にあります。

ワークショップでは、1位の学生の方にシークレットな賞品を差し上げました。

 

ワークショップで感じたきづき・伝えたかったこと

時間は有限です。皆さんもそれはわかっていますが、なかなか授業の中で、それを実感することは中々ないと思います。もちろん、宿題の提出やクラス全体の時間はありますが、時間という概念は大切です。今回のワークショップでもそれを意識して、時間をどんどん区切って、小さなアクテビティを数多く入れました。学生の感想の中に「バタバタしていた」という意見がありましたが、逆に言えば、それが僕の目指していたものです。Google などのIT企業でも、時間は大切にされます。何故なら、ソフトウエアを早く市場に出すためには、各エンジニアが時間の概念を大切にする必要があるからです。このワークショップでは、それも気づいて欲しかったです。

また、皆さんが何気なく授業などでやっている「手を上げて、先生に当ててもらって意見などを発表する」という行為がありますが、それは僕が小中学校で30年以上前でもやっていたことです。それはボトルネックとなります。というのは、先生が当てる人を探していたり、沢山の人が発表したりしたい時に、1人の人しか当てられないからです。僕の授業でやりたくないのは、まさにそれで、SIJP でやっている授業でも手を挙げるという部分が全くありません。その代わりに Seesaw で提出された内容をみて、いいものはこっちから積極的に当てて発表してもらっています。それが、スピードや効率の上からも上回ります。

最後に、下の学生の感想にもありますが、声の大きい人や自己主張の強い人だけではなく、すべての人が平等にワークショップに参加して貢献するという、ダイバーシティやインクルージョンの考えを IT の力を使って実践できたというのは気づきでした。一般に、アメリカに来るとどんどん自己主張をしなさいというとこをいわれたかもしれませんが、このような授業がメインストリームになると、それが変わってくる可能性もあります。

 

学生の感想・気づき

(セミナーへの満足度5、キャリアを考える上で役立ったか3)
最初のアジャイルミーティング(スクラムミーティング)によって、解決したいこと(恥を捨てる、コミュニティへの参加)が明確化されました。教育の問題に対する自分の意識度についても気が付くことができました。アクティブな議論が出来てとても有意義な時間を過ごすことが出来ました。
(セミナーへの満足度5、キャリアを考える上で役立ったか3)
事前課題があったのがよかったです。密度の濃い一時間半でした。事前準備があることで”受け身”のイベントではなくなったし、インタラクティブで良いイベントでした。「プログラミング教育は子供に成功体験を与える一番簡単な方法」という考え方を聞いてすごく納得しました。Google docs を使って会議することや Seesaw を使ってアイデアを共有することは効率的だなと思いました。
(セミナーへの満足度3、キャリアを考える上で役立ったか3)
ご自身のお仕事の傍、ご自身の問題意識を解決するために、行動している姿はロールモデルになりました。僕自身、教育問題に問題意識はありますが、 ITという側面から解決に向けて行動されている方にお会いするのは初めてだったので、新鮮でした
(セミナーへの満足度5、キャリアを考える上で役立ったか4)
声が大きい人の意見が通りやすいというお話をなさっていましたが、私は声が大きくていつも他の方の意見を潰してしまいがちなので、今日使用した方法で意見を集められるのはいいなと思いました。
(セミナーへの満足度4、キャリアを考える上で役立ったか4)
ITを利用することで誰が発言したかではなく何を発言したかという視点になると感じた。個人的には理想に近いと感じている。
(評価なし)
今日のブレインライティングの趣旨が、「声の大きいひとだけが意見を一番表明できる機会にならないように、いろんな人の意見を聞けるような場」としてブレインライティングをしましたが、正直意外でした。アメリカは躊躇したせずになんでも発言する文化なので、それに合わせるべきだと思っていましたが、私が今週取っていた授業の先生の評価方法も「国民性によって発言する機会の頻度が異なるので、発言量では評価しない」と言っていたのを思い出した。日本以上にアメリカには多様な人種が集うので、今までみたいにアメリカではアメリカ方式の物差しではかるということが変わって来ているのかとおもった。いろんな国から人々が来るため、いろんな人から意見を収集するための手段としてこの方法を採るのは素晴らしいことだと思った。まさに世界の縮図だと。今後より多様性を受け入れる国になっていくのかと希望のようなものを感じました
セミナーへの満足度5、キャリアを考える上で役立ったか4
かなり時間が短かったので、もっと時間が欲しいと感じた。ただ短い時間で話すことにも新しい発見があった。やはり自分の中で目的(目標)が固まっていないのは問題だと感じた。

 
世界の最先端で活躍されている今崎さんならではの工夫に満ちた Meet the Professional は、学生にとっても大変刺激的だったようです。IT の持つ可能性や未来を体験できる機会をくださった今崎さん、本当にありがとうございました!